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奈良県の「麺」といえば、昔から土地が肥沃で小麦の生産が安定していたため素麺やうどんなどが主流であった。そのためか、県内で本格的な手打ち蕎麦を味わえる店は珍しい。
小笠原武さんは「地元にない本格蕎麦をこの土地で広めたい」と多くの店で修行を積んだ後、三年前に手打蕎麦の店「はぎ乃」を故郷の榛原町にオープンした。当初から噂が噂を呼び「知る人ぞ知る通の店」という呼び声も高い。しかし小笠原さんは「当店は、信州や関東などのいわゆる蕎麦処の在り方としては、普通のやり方をしているのにすぎません」と言い切る。
お昼に売る蕎麦は朝に打ち、夜に売る蕎麦は夕方に打つ。風味を損なわないように、ぎりぎりのタイミングで蕎麦を打つため量が限られてくる。そのため、売切れしだい終了となる。このスタイルは蕎麦処では当たり前のことなのだ。これは特に関西の商人文化圏では、とかく色眼鏡で見られがちではある。しかしその実は、作り手の情熱と真心のあらわれなのである。
蕎麦をいい状態で食べてもらうために最大限の神経を使っている小笠原さんは「本当は出来たての『今』という瞬間に食べてほしいと思っているのですが、なかなかお客さんにそこまでは言えません」と笑う。
小笠原さんが一番におすすめするのは、蕎麦本来の風味を味わえる「ざる」。
たっぷりのだしをとったつゆに本わさびを少々添え、食すれば芳醇な蕎麦の香りが口から鼻へと通り抜け、何とも言えない余韻を残す。
「将来的には蕎麦打ち教室や出張蕎麦打ちなど、店の営業をはなれたところで蕎麦の文化を広める活動をしたいと思っていますが、まだまだ。これからも店のスタイルを維持し続けながら、普段の生活の中で気軽に取り入れてもらえるようなお店にしていきたいですね」。
蕎麦という「異文化」を広めようとする小笠原さんの挑戦は始まったばかりだ。
そば処「はぎ乃」
奈良県宇陀郡榛原町長峯45―1
TEL 0745―82―6080
営業時間午前11時〜午後3時午後5時〜午後10時
水曜定休(祝日の場合営業)